薄紅色の着物と、白いストールで、黒い車から出てきたんは、愛しい、愛しい、俺のカノジョ。
1月1日。初詣の帰り、手を繋ぐ彼女に目を奪われるのは自分だけではない。
通り過ぎる男たちが、目を留めるたび、振り返るたび、嫉妬と優越感と、複雑な思いに蝕まれていく。
無理もないのかもしれない。は、綺麗だから。
「何や、えろう悪いことしとる気分やわ」
「どうして?」
ショーウィンドウにでもいそうなくらい、綺麗で、綺麗で。
薄紅色の着物も、淡く彩られた化粧も、傷ひとつない細い指先も、すべてが綺麗で。
まるで何も知らない無垢で純粋な、ビスクドールのように、彼女は綺麗すぎて。
「真っ白な人形を俺が汚しとるみたいや」
「…人形遊びが好きなの?」
のような人形なら、一日中でも愛でていられるような気がする、と、忍足は思った。
それでも、繋いだ手から伝わる体温も、上目遣いに微笑むその顔も、彼女は人形ではないと伝えてくれている。
「…人形より、本物がえぇに決まっとる」
「なら問題ないでしょう?」
「せやけど、汚しとるんは俺やろ?」
は人形ではない。
それでも、純粋で真っ白だった彼女を、泣かせて、傷付けて、
それでも手離したくない自分は、やっぱり、彼女を汚しているような気がする。
「馬鹿みたい」
「何がや?」
「だって、人形だって愛されて、大切にされて、幸せなはずでしょ?」
ショーウィンドウの中で、孤独に佇む人形より、人の手で愛される人形の方が幸せに決まっている。
「私は人形じゃないけど、大切にされているのに汚されるなんて、変だわ」
繋がれた手に少しだけ力を込め、は忍足を見上げた。
「それとも、大切にされていると思っているのは、私だけ?」
繋いだ手をぎゅっと握り締め、忍足はにっこりと微笑んだ。
「そんなことあらへん。いっとう大切に思うとる」
みっともないくらいに泣いても、縋りついても、手離したくないくらい、大切な、大切なただひとつの存在。
「なら私は、汚されないわ。大切な人に、大切に想われているんだもの」
柔らかく微笑んだは、やっぱり綺麗で、初めて会ったときと同じように、真っ直ぐで、揺らがない。
「せやけど、大した変わりようやな。『最低』が『大切な人』になったんやから」
ニヤニヤと、どこか意地悪そうな瞳で嬉しそうに語る忍足に、は頬が熱くなるのを感じた。
「私を人形にするなんて、最低」
恥ずかしい思いを隠すように、は忍足を睨みつけた。
「まだ、『最低』なん?」
「第一印象は、そう簡単には変わらないのよ?」
「…よし!決めたで!」
繋がれていない方の手を高く掲げ、忍足は叫んだ。
「新年の目標や!」
「何?」
「に『最高』って、言わしたる!」
高々と宣言した忍足に、は笑みを漏らした。
「一年の計は元旦にあり、って言うし、頑張ってみたら?」
大好きな人に大切に想われて、大切な人と一緒に一年の始まりの日を過ごしている。
繋がれた手はあたたかくて、胸を占める想いもあたたかくて、
こんな新しい年の始まり方を『最高』だと思っていることは、もう少しだけ、内緒にしておこう。
だって、こんなに早く目標が達成されてしまったら、つまらないでしょ?