6月



東京とは違う、潮の香りと灼熱の太陽の下、ビーチは、日本の高校生で溢れかえっていた。


も篠谷もえぇ脚しとるやん」
屈みこんで、嬉しそうに頷いている忍足に、と篠谷の蹴りが見事に決まる。
「侑士、だっせ〜」
後ろにひっくり返った忍足を笑っているジローを他所に、と篠谷は海へと繰り出した。


6月に入り、氷帝学園高等部2年生一同は、常夏の国グアムへと修学旅行に来ていた。
国際学習と称した現地高校生との交流、歴史学習の戦地慰霊碑見学を終え、3日目の今日は、自由行動だ。
街中へ出た者、こうしてビーチに繰り出した者、様々だが、ホテル前のビーチは氷帝生で溢れている。
忍足、ジロー、篠谷莉子、そしての班もその一行で、少し離れた場所にいる跡部と彼と同じ班の亜樹もまた、彼らと同様だった。

「侑士、ジローちゃん。皆でビーチバレーしない?」
屈みこんでにっこりと笑った亜樹に誘われ、忍足とジローは跡部達と一緒にビーチバレーに参加している。


「ねぇ、。あの子、テニス部のマネージャーでしょ?」
「そ。柴田亜樹さん」
自分の想い人であるジローが、楽しそうに他の女子と戯れている姿を、莉子は顔を顰めて見ている。
「…胸、大きいよね」
「確かにね」
ビーチバレーのボールを追うたびに、亜樹の豊かな胸が揺れている。
それに注目しているのが自分達だけではないことを、も莉子も知っていた。
「あれって反則よね。あんな水着着て…。芥川君だって見ちゃうよ、あんなの」
波打ち際に座り込んでしまった莉子に、もしゃがみ込み、一緒にその様子を見ていた。
「ん〜、確かに胸は大きいけど、それだけで好きになっちゃうなら、もうとっくにくっついてると思わない?」
「そうだけど…」
納得がいかない莉子の気持ちは、にもよく判る。
亜樹の対戦側のコートにいる跡部にも、彼女の揺れる胸が見えていないわけはないのだ。
その表情はこちらからは見えないが、それでもも面白くない。
「…応援しに行こうか!」
立ち上がって莉子の腕を引っ張るだが、莉子はその場に留まり、起きようとしない。
「楽しんでるのに、悪いよ」
「いいの!同じ班なんだし、ね!」


半ば無理矢理引っ張ってきた莉子と共に、は試合を観戦している忍足の隣に腰を下ろした。
「どっちが勝ってるの?」
「そっち」
忍足が指差したコートでは、跡部がちょうどスパイクを決めたところで、亜樹ではない別のマネージャーと手を合わせる跡部と、は目が合った。
それが理由かは判らないが、跡部はコートを出、宍戸と交代し、忍足の横に腰を下ろした。
「何や、跡部。もうお疲れかいな」
「一方的過ぎてつまんねぇんだよ」

目の前のコートでは、ボールを追いかけ跳ねる亜樹の姿と、同じコート内にいるジローの姿がある。
前を向いている跡部の視線が気になるものの、は敢えてそれを確かめようとはしなかった。
莉子の視線は、楽しそうに亜樹と笑い合っているジローに、一心に注がれている。
「何や、篠谷。元気ないなぁ?」
「……」
「柴田さんの胸に喰いついてる男子達を見ると、女子としては面白くないのよ?忍足君」
「あぁ、そないなことか」
膝を抱えている莉子の代わりに説明したに、忍足は目の前のコートではしゃぐ2人を見た。
「まぁ、女子の胸を見てしまうのは、ただの男の性や。気にせんとき?」
「それが大きいと尚更よね〜」
横にいる男2人を嘲るように言ったに、跡部が「くだらねぇ」と返す。
「別に胸で女に惚れるわけじゃねぇだろ。馬鹿馬鹿しい」
「ま、そういうことやな」
男だけで納得しあう2人に、それでもと莉子は何か、胸のモヤモヤを捨てきれないでいた。


「もう疲れたぁ〜」
コートから出てきて、亜樹は跡部たちの目の前で、四つん這いで息を切らせている。
一層強調されたその大きな胸と、息を弾ませるたびに動くそれに、も莉子も呆れてしまう。
どう見てもわざとしているとしか思えない。
「じゃ、選手交代ね。篠谷は?」
「え?」
後ろに立っていたジローに突然声を掛けられた莉子は慌てるが、はそんな莉子の背中を押した。
「バレー部の腕の見せどころだよ!ほら」


「やった!さすが篠谷!」
コート上で手を合わせている2人は、とてもお似合いに見える。
気のせいかもしれないが、先程までよりジローが楽しそうに見えるのが、は嬉しかった。
跡部の隣で膝を抱えている亜樹の大きな胸は、彼が少し視線を動かせばバッチリ見えるだろう。
この場で、自分は何を言える立場でもない。それに、亜樹を見る彼なんて、見ていたくない。
はその現実を頭から追い払い、コートにいる2人を懸命に応援していた。



夜、ホテルの部屋で、荷物の整理をするは、1人だ。
同室の莉子は、先程ジローが誘いに来て、2人で仲良く出かけていった。
どうやら上手くいきそうな友人の恋が、は嬉しくて仕方ない。。


ビー
呼び鈴が鳴り、もう帰ってきたのか、と驚いてドアを開ければ、そこにいたのは予想した人物ではなかった。

「どうしたの?」
「ジローと篠谷を見かけたからな。上手くいきそうじゃねぇか」
「うん」
周囲を確認して、慌てるように中に引き入れたに、跡部は扉を閉め、鍵をかけた。
「…誰かに見られたら、危ないよ?」
「俺様がそんなヘマするかよ」
確かに廊下に人影はなかったが、それでもは、その跡部の軽率な行動が心配だった。
「何?」
後ろから抱きしめてきた跡部に、が振り向けば、そのまま唇が重ねられる。

「俺は亜樹の胸なんかに興味はねぇぞ」
「……わざわざそれを言いに来たの?」
再び重ねられた跡部の唇に、は嬉しさがこみ上げる。
「…んっ、男の性、なんでしょ?」
「俺の性が求めてんのは、こっちなんだよ」
抱き合ったまま、何度も重ねられる唇の中で、2人は会話を続ける。
「今度うちに来るとき、水着持って来いよ。プール貸切りだぜ?」
「夏になったらね」
「男の性だからな。しっかりと見てやるぜ」
「サイテー。見るだけにしてよね」
「知るか。男の性だしな、抑えられるもんじゃねぇんだよ」
「やっぱり男って最低」
最低、と文句を言いつつも、も跡部の顔も笑顔で、交わされるキスは甘く、温かいものだった。


莉子が帰って来る少し前に、跡部はその部屋を出て行った。
帰ってきた莉子から受けた報告に、は心から喜び、その夜、2人は一緒に新しい恋人達の誕生にはしゃいでいた。








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